第6回日本訪問リハビリテーション協会学術大会(池辺晃子)
2015年06月1日
慢性期の中心性頸髄損傷患者への訪問リハビリ介入にて庭木の剪定まで達成した一症例
リハビリ訪問看護ステーション ルピナス 池辺晃子、田中仁
医療法人恒進會 恒進會病院 多田大樹、山口信彦
【目的】
中心性頸髄損傷を受傷されて約4年が経過した症例に関わった。自宅内での基本動作や日常生活動作(以下、ADL)は自立しているが、屋外活動にて再転倒するのではないかという不安・恐怖心があり、やや内向的であった。また、趣味であるガーデニングを行う際、屋外での庭木の剪定や草取りの際に握力の発揮が乏しく、妻の手伝いが必要であり屋外活動に不自由さを感じていた。中心性脊髄損傷者の移動能力の予後についてはさまざまな先行文献が存在するが、握力予後については先行文献が少ない。今回、握力測定を行いながら本人様が数値的・視覚的にリハビリ効果の自覚を感じ、治療を進める事で手段的日常生活動作(以下、IADL)に変化が見られるのではないかと予測した。本症例の経過・考察について報告する。
【症例紹介・経過】
70代男性、妻と2人暮らし、趣味はガーデニングを行う事である。平成22年11月12日、自転車走行中に転倒し、中心性頸髄損傷(C3-5不全損傷)受傷された。救急搬送直後は脊髄ショック認められたが、数日後より両側とも大腿四頭筋の筋収縮認め、1ヵ月後には基本動作軽介助で可能であった。回復期病棟を経て、平成23年4月に自宅退院となる。約1年間の外来リハビリ通院終了後は自宅療養されており、平成25年10月より訪問リハビリ開始となった。訪問リハビリ介入当初、フランケル分類はD、手指先端にしびれあり、基本動作は自立(修正自立)・ADLは自助具や福祉用具を利用して自己にて可能。屋外活動への参加を希望されており、しゃがみ位にて花木の植え替えや水やりなどは徐々に自己にて行えるようになっていたが、庭木の剪定や草取りなどの際に十分な握力発揮が出来ず、妻が手伝っていた。
期間:
平成26年4月7日~平成26年12月5日までの約8か月間とする
方法:
右手指を中心とした上肢ROM訓練、腰部リラクゼーション、体幹・下肢筋力強化訓練を施行し、訓練前後での握力測定を行う
握力測定方法:開脚立位にて体側に握力計が触れないよう把持する。グリップは示指PIP関節90°となるよう調節し、勢いなどはつけずにその状態で最大筋力を発揮する
※握力計 (株)ツツミ スメドレー型握力計を使用する
【結果】
グラフ参考
IADL評価法は9点から12点に向上し、握力は訓練前11.8kgから14.2kg、訓練後12.5kgから15kgと向上が認められた。IADLは趣味であるガーデニングにて庭木の剪定作業が行えるようになった他、包丁やフライパンを使用した食事の用意が実用的となったことや、他者との交流が増え、地域の祭事での役員など屋外活動の機会も増加した。
【考察】
手内在筋・前腕筋群の柔軟性が向上したことで把握する際の可動性が改善し、筋力発揮が容易になった事が考えられる。また、やや内向的であったがリハビリ効果を数値的・視覚的に自覚することで達成感・充実感を得られた事が、屋外活動の増加・IADL能力の向上に繋がる大きな要因の一つであると考える。
さらにガーデニングにはしゃがみ動作や応用立位の能力も必要であり体幹・下肢筋力の向上や動作能力の向上を図って訓練を行っていたことが、握力発揮にも反映されていると考える。
【まとめ】
慢性期の中心性脊髄損傷(ADL自立、手指の巧緻性低下)でも本人の意欲を高めながら、重点的に訓練を行うことで改善が認められる。身体機能の向上だけでなく動作レベルの向上・家庭内の役割獲得を意識づける事が大切であることを再認識した。在宅の現場においては慢性期の利用者が多く、一般的に慢性期での身体機能・能力改善は乏しいと言われているが、今回IADLの改善を図る上で握力に着目した結果、利用者のニーズが満たされ、身体機能・能力の改善を実現する事が出来た。今後、訪問リハビリでの効果を数値的・視覚的に自覚しながら訓練を進めていく事を推奨していきたいと考える。