第50回日本理学療法学術大会(中島文音①)
2015年06月5日
訪問リハビリテーションでの家庭用低周波治療の効果(ホームエクササイズによる片麻痺肩関節亜脱臼の1症例)
株式会社 ルピナス リハビリ訪問看護ステーションルピナス 中島文音、田中仁
大阪保健医療大学 今井公一
Key word:家庭用低周波 自主トレーニング 片麻痺肩関節亜脱臼
【はじめに、目的】
第49回日本理学療法学術大会にて、訪問リハビリテーションのホームエクササイズにおける脳梗塞患者の痙縮軽減を目的に低周波治療の効果を報告した。脳梗塞片麻痺患者の肩関節亜脱臼に対しては、脳卒中治療ガイドライン2009で低周波での治療効果は (Ⅰb)とされており、今回は、家庭用低周波治療器(以下TENS)を用いたホームエクササイズ指導によって、亜脱臼の改善、痛みの軽減、肩関節可動域の拡大が得られるかどうかABAB型シングルケースデザインで検討した。
【方法】
66歳男性、1年前に脳梗塞にて左片麻痺を呈した症例を対象とした。Brunnstrom Stage(以下Brs)上肢Ⅱ、下肢Ⅲ、手指Ⅲレベル、麻痺側の肩関節は、他動的関節可動域(以下PROM)屈曲70°、外転90°(両項目とも痛みによる制限)、Acromiohumeral Interval(以下AHI)は3cm、夜間安静時痛のVisual Analogue Scale (以下VAS)は7cm、Fugl-Meyer Test(以下FMT)16点であった。基本動作、日常生活動作ともに自立レベルである。A期間(介入期)は、訪問リハビリテーション時の運動療法とホームエクササイズ指導のTENSを毎日実施し、B期間(未介入期)は、運動療法のみを行った。OMRON低周波治療器エレパルスを家庭用低周波治療器として使用し、電極を棘上筋、三角筋に設置した。それを、ホームエクササイズとして、毎日30分間実施するよう指導した。本研究は、A1期、B1期、A2期、B2期に渡って20週間を研究期間とした。
【結果】
評価として、片麻痺の随意性はBrs、FMTで評価した。麻痺側の肩関節は、屈曲、外転のPROMを評価した。AHIは、訪問時に触診で骨頭間距離を評価した。痛みはVASで評価した。各評価項目において、4期間をFriedman検定で行った結果、Brs 上肢はp=0.02、 Brs 手指は p=0.03、FMTはp=0.003、PROM肩関節屈曲はp=0.005、AHIはp=0.02、VAS はp=0.005となり、各6項目において有意差が認められた。Scheffeの対比較では、Brs上肢、A1期とA2期 (p=0.05)、A1期とB2期 (p=0.05)で有意差がみられた。Brs手指、A1期とB1期(p=0.02)、A1期とA2期(p=0.02)、A1期とB2期(p=0.02)で有意差がみられた。FMTは、B1期とB2期(p=0.009)で有意差がみられた。PROM肩関節屈曲は、A1期とA2期(p=0.02)で有意差がみられた。VASはA1期とB2期(p=0.01)、B1期とB2期(p=0.04)で有意差がみられた。
【考察】
脳梗塞後遺症による片麻痺肩関節の亜脱臼に対しての低周波治療の研究は、病院や施設で幾つか報告されている。今回、訪問リハビリテーションにおける、ホームエクササイズとして家庭用TENSを実施して、先行文献と同様の効果があるかどうかを検討した。A1期B1期A2期B2期の20週間の期間では、AHIについて、Griffnらは弛緩性麻痺期に亜脱臼が進行しても、負荷に対する棘上筋の活動がおこれば亜脱臼が進行しにくいとのことから、本研究も同様、低周波刺激による棘上筋、三角筋の筋活動が活性化されAHIの改善が認められたと考える。VASの改善が認められた理由として、庄本らは、筋が弛緩性麻痺を呈することによって、その他の組織に持続的にストレスが加わる可能性も高く、亜脱臼が持続、進行することにより伸張される関節包、靭帯には痛覚受容器を多く含んでいて、これによって疼痛が発生する可能性を述べている。また、大嶋らは、アライメントが崩れた肢位のまま放置される状態が続けば、上肢屈筋群の痙性による絞扼が強化され、さらなる循環不全神経障害を引きおこしている可能性が存在すると述べている。従って、本研究では、ホームエクササイズによる家庭用TNESの効果で、筋収縮が導かれ、筋の伸張が改善したことで、痛みが軽減したと考える。麻痺側のBrsやFMTの改善が認められたことから、その随意性の向上が考えられる。それは、AHIの結果から亜脱臼が改善されて、肩関節の中枢部の固定が強化され、麻痺側上肢の随意性向上に繋がったと考える。他動的肩関節屈曲ROMの結果に、有意差が認められたことから、上記の肩関節痛の軽減から、肩関節の屈曲可動域が改善し、上記の随意性向上にも繋がったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
ホームエクササイズ指導による家庭用TENSにて、それを使用することは肩関節の亜脱臼の改善、痛みの軽減、また他動的関節可動域が改善して、随意性の向上も認められことから、脳梗塞後遺症による片麻痺肩関節の亜脱臼に有用と考えられた。
【倫理的配慮,説明と同意*】
本研究は、対象者、家族にヘルシンキ宣言に基づいた研究の主旨の説明を行い、同意を得て進行した。また、当所属法人の論理委員会で承認された研究である。